003 そのロッド、どこで使うの?



 ちゃ〜坊が、一本の長いロッドを抱えてやってきた。

ちゃ〜坊
「みなとじい〜! 今度こそ決めた!」

みなとじい
「何を?」

ちゃ〜坊
「ロッド!」

みなとじい
「ほう」

ちゃ〜坊
「長くて、強くて、遠くまで投げられる!」

みなとじい
「何釣るんだ?」

ちゃ〜坊
「メッキ!」

みなとじい
「どこで?」

ちゃ〜坊
「港!」

みなとじい
「そんな長いの持ってくのか?」

ちゃ〜坊
「だって長いほうが遠くまで届くじゃん」

みなとじい
「遠くに魚がいればな」

ちゃ〜坊
「…………」

 ちゃ〜坊が、長いロッドを見た。

ちゃ〜坊
「近くにいたら?」

みなとじい
「近くを釣ればいい」

ちゃ〜坊
「この長いので?」

みなとじい
「好きにしろ(^^;」

 同じ魚を釣るにしても、釣りをする場所はひとつじゃない。

 港。

 砂浜。

 ゴロタ場。

 川。

 そして同じ「港」や「砂浜」でも、場所が変われば様子はまるで違う。

ちゃ〜坊
「でもさ、メッキ用とかシーバス用とか書いてあるロッドを買えばいいんじゃないの?」

みなとじい
「それも目安にはなるな」

ちゃ〜坊
「じゃあ、それでいいじゃん!」

みなとじい
「ちゃ〜坊がメッキだったら、いつも同じ場所にいるか?」

ちゃ〜坊
「なんでボクがメッキなの?」

みなとじい
「いいから」

ちゃ〜坊
「う〜ん……いろんなところへ泳いでみたい」

みなとじい
「ほら」

ちゃ〜坊
「ボク、メッキの気持ち分かるかも」

みなとじい
「そこはどうでもいい」

 たとえば砂浜。

 広い砂浜から沖へ向かってルアーを投げるなら、遠くまで届くことが大きな武器になることがある。

 波の力が強ければ、それに負けないロッドの強さも欲しくなる。

ちゃ〜坊
「ほら! やっぱり長くて強いほうがいいんじゃん!」

みなとじい
「そういう場所ならな」

ちゃ〜坊
「……また条件が付いた」

みなとじい
「海はどこでも同じじゃないからな」

 同じ砂浜でも、すぐ目の前から急に深くなる場所もある。

 そんなところでは、必ずしも遠くへ投げることが最優先とは限らない。

 長時間ロッドを振り続けるなら、軽くて扱いやすいことのほうがありがたい場合だってある。

ちゃ〜坊
「同じ砂浜なのに?」

みなとじい
「同じじゃないだろ。海の中が違う」

ちゃ〜坊
「海の中なんて見えないよ」

みなとじい
「だから見るんだよ」

ちゃ〜坊
「見えないのに見るの!?(^^;」

みなとじい
「波とか、地形とか、水の動きとか」

ちゃ〜坊
「あ〜、そっちね……」

 今度は港。

みなとじい
「ちゃ〜坊、メッキを釣るなら短くて軽いロッドが扱いやすい場所も多いぞ」

ちゃ〜坊
「やっぱり! じゃあ短いのにする!」

みなとじい
「待て」

ちゃ〜坊
「今度は何〜?」

みなとじい
「足場が高かったら?」

ちゃ〜坊
「足場?」

 堤防の上から水面をのぞいてみる。

 もし水面までの距離が大きかったら、短いロッドでは足元までルアーを泳がせにくくなることがある。

 せっかく魚が追いかけてきたのに――

ちゃ〜坊
「来た来た来た〜!」

 ちゃ〜坊がルアーを手前まで引いてくる。

ちゃ〜坊
「食え〜! 食え〜〜!」

 ところがルアーは魚の目の前で水面から飛び出した。

ちゃ〜坊
「あっ!」

 魚は海の中へ戻っていく。

ちゃ〜坊
「待って〜〜〜!」

みなとじい
「待たないな」

ちゃ〜坊
「今の絶対釣れたのに〜!」

みなとじい
「魚もそう思ってるかもな」

ちゃ〜坊
「だったら食べてよ〜!(^^;」

 同じ港。

 同じ魚。

 同じような小さなルアー。

 それでも、足場の高さが違うだけで、使いやすいロッドの長さが変わることがある。

ちゃ〜坊
「なるほど……」

みなとじい
「長いロッドがいいとか、短いロッドがいいとか、それだけじゃ決められないだろ?」

ちゃ〜坊
「そこで何をするか、なんだね」

みなとじい
「そういうこと」

 もうひとつ。

 小さなルアーを使いたいから、柔らかめのロッドを選んだとする。

ちゃ〜坊
「小さいルアーなら、小さい魚を釣るんでしょ?」

みなとじい
「そうとは限らない」

ちゃ〜坊
「え?」

みなとじい
「大きな魚が食ってきたらどうする?」

ちゃ〜坊
「…………」

みなとじい
「しかも強い流れの中だったら?」

ちゃ〜坊
「…………」

みなとじい
「近くに潜られそうな場所があったら?」

ちゃ〜坊
「ちょっと待って。急に怖くなってきた(^^;」

 小さなルアーを扱いやすいこと。

 魚を掛けやすいこと。

 そして掛けた魚を無事に取り込めること。

 ロッドには、その全部が関係してくる。

ちゃ〜坊
「なんかロッド選びって、思ってたより面倒だね」

みなとじい
「そうか?」

ちゃ〜坊
「魚を決めて、それに合うロッドを買えば終わりだと思ってた」

みなとじい
「どこで釣る?」

ちゃ〜坊
「うん」

みなとじい
「どんなルアーを使う?」

ちゃ〜坊
「うん」

みなとじい
「どのくらい投げたい?」

ちゃ〜坊
「うん」

みなとじい
「掛けた魚をどうやって取り込む?」

ちゃ〜坊
「うん……」

 ちゃ〜坊が少し考える。

ちゃ〜坊
「……なんか、面白くなってきた」

みなとじい
「だろ?」

 ロッドに書かれた数字や言葉だけを見て選ぶ。

 人気のあるロッドだから選ぶ。

 もちろん、それがきっかけでもいい。

 でも、実際に釣り場へ立ったところを想像してみると、選び方は少し変わってくる。

 魚を見る。

 釣り場を見る。

 使うルアーを見る。

 そして、自分がそこでどう釣りたいのかを考える。

 そうするとロッドは、単なる「魚を釣るための棒」ではなくなってくる。

ちゃ〜坊
「よし! 今度こそ決めた!」

みなとじい
「どんなロッドだ?」

ちゃ〜坊
「釣り場に合ったロッド!」

みなとじい
「ほう。どこへ行く?」

ちゃ〜坊
「まだ決めてない!」

みなとじい
「…………」

ちゃ〜坊
「あれ?」

みなとじい
「002から進歩してないぞ〜!(^^;」




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